今年7月、ミネソタ州在住のお医者さんで、敬虔なキリスト教徒であるゲーリー・コールズさんから、長崎への原爆投下とキリスト教についてのコラムをもらいました。
折しも、久間防衛大臣の「仕方がない」発言の後。コールズさんの文章を「世界から見た今のニッポン」に掲載したいと思い、その許可ももらったのですが、編集の過程で連絡がとれなくなり、いまにいたってしまいました。せっかくのコラムを私のパソコンに眠らせておくのももったいないので、一部要訳をここでご紹介します。
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1945年8月9日、爆撃機編隊に乗り組んだ飛行士はすべてクリスチャンでした。彼らはルーテル派とカトリックの従軍牧師による祈りと祝福の言葉を受け、南太平洋のテニアン島を離陸。“ボックスカー”と名づけられた爆撃機には“ファットマン”(イギリスのチャーチルが命名)というプルトニウム型原子爆弾が搭載されていました。
ターゲットは小倉です。しかし、上空は曇に覆われていたので、ボックスカーは第2のターゲット、長崎に向かいます。やがて雲の下に浦上の聖マリア大聖堂が見えてきました。彼らは数週間前、この大聖堂を目印にするよう指令を受けていたのです。
浦上大聖堂は東洋で最も古く、かつ最も大きなキリスト教会です。長崎には日本で最も古く、影響力のあるキリスト教信者の社会が存在していました。
1550年にフランシスコ・ザビエルによってつくられた長崎のキリスト教社会は、東洋のキリスト教の歴史の伝説となっています。というのも、2世紀にわたる幕府の過酷な迫害(幕府は棄教を拒む信者を磔にさえしました)にもかかわらず、山中で信仰を保ち続けたからです。
ところが、日本の支配層が2世紀にもわたって苛烈な弾圧を加えてもなくすことができなかったキリスト教社会を、アメリカのクリスチャンはたった9秒で消滅させたのです。大聖堂は原子爆弾によって破壊され、数千の長崎のクリスチャンはカーボンのように焼き尽くされるか、蒸気のように消されてしまいました。
かろうじて生き残った人々も原爆症に苛まれ、さらには内部被爆という、子孫にまでも核の恐怖が引き継がれています。
大量破壊兵器である2つの放射能爆弾を投下した第509混成部隊(第2次世界大戦時の米軍作戦部隊の名称)には、2人の従軍司祭がついていました。そのうちの1人、ジョージ・ザベルカ神父は、当時の社会の空気をこう語っています。
「世俗社会、宗教界、軍隊、それら全体が“ジャップに原爆をくらわせろ”と言うようなものでした。“神はわれわれとともにある”と思っていたのです」
ザベルカ神父は、自分が見送った爆撃機編隊が1945年の夏、一般の人々と無防備都市に何を行ったのかを知っていました。しかし、その後、長い沈黙を続けたのですが、やがて「アメリカ国民の敵(日本)=神の敵ではなく、むしろ神の愛する子供たちだった」と認識し、軍事力によるすべての暴力に対して反対の声を上げるようになります。
ザベルカ神父の最大の理解者であるエマニュエル・チャールズ・マッカーシー神父は、アメリカにおけるキリスト教非暴力主義を訴える第1人者です。マッカーシー神父は「多くのキリスト教徒は、非暴力というイエスの教えを率直に語ろうとはしていない」と言います。
イラク戦争に向かう若者たちも地元の教会で祝福の言葉を受けて出征しました。しかし、帰還した彼らのなかにはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ人が少なくなく、そして大半が教会から遠ざかっています。
毎年、夏がくると、マッカーシー神父は7月1日から8月9日までの40日間、精進に入ります。
教会に対して、キリスト教非暴力主義に立ち返ることを呼びかけるために。
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