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毎週水曜更新の『マガジン9条』です。

春がきました!
さて、先週の予告通り、うれしいニュースをお届けします。
「マガ9」から4冊目の本が誕生です。
岩波ブックレットより4月9日発売の
『使える9条(12人が語る憲法の活かしかた』。

インタビュー「この人に聞きたい」に加筆してまとめたもので、
『みんなの9条』(集英社新書)に続いての書籍化です。
『使える9条』については、また詳しく書きますね。
みんな、買ってね。

さて、今週の「マガジン9条」は、

「この人に聞きたい」は、
平和や人権などをテーマにしたイベントでも活躍中のミュージシャン、
寿[kotobuki]のおふたりが登場です。

寿の音楽のルーツともいえる沖縄について、
9条について、語っていただいています。

「癒しの島・沖縄の深層」は、
大江健三郎さんの『沖縄ノート』をめぐる裁判の判決について。

画期的ともいえるこの判決の意義を考えます。

「狸穴から」は、「健康なら死んでもいい」。
健康でありたい、とは誰もが願うことですが、それが行きすぎると…?

「デスク日誌」は、「脅迫政治」。
ここ最近の政府のやり方を見ていると、
どうしてもそんな言葉が浮かんできてしまうのです。

「マガ9レビュー」は、
ヒトラー偽日記事件を題材としたドイツ映画の傑作、
『シュリンク!』
を取り上げます。

その他、「みんなのこえ」「お知らせメモ」も更新しています。

それでは、今週もじっくりとお読みください。

(水島さつき)
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Comment※コメントは承認制とさせていただいてます。
言論・表現の自由と萎縮効果。そして市民的非暴力抵抗運動の可能性について。
鈴木耕氏が『デスク日記』で述べられた、映画『靖国』についての私論を述べたいと思います。
まずは参考までに、「国境なき記者団」による報道の自由ランキング(2007年度版)をご紹介します。
http://www.rsf.org/article.php3?id_article=24025
http://www.hurights.or.jp/news/0710/b08.html
日本は、06年の51位から37位に回復したそうです。しかし今回の事件で今年はランクが下がる可能性がありえそうです。一方、163位の中国がどうなるかは論じるまでもありません。五輪採火式に突然乱入して手錠を五輪マークにしたデザインの旗を掲げ、チベット弾圧の抗議をした人々が「国境なき記者団」です。

さて、4月6日放送の『サンデープロジェクト』に、『靖国』を配給協力したアルゴ・ピクチャーズ社長の岡田裕氏が出演されて、以下のような事を述べておりました。
・稲田朋美氏側が、映画公開の前に試写を求めたという事実はないという主張は、大ウソである。
・稲田氏側が文化庁を通じて、特定の議員のみの試写を要望したのに対し、岡田氏は試写を全国会議員が試写に参加できるように取り計らった。
・岡田氏の意見として、今回の「上映中止問題」は稲田氏側の行動が一因ではあるが、それだけが原因ではなく、所謂ネット右翼の抗議電話による影響が大きい。その抗議電話は映画館にも、アルゴ・ピクチャーズ側にも猛烈にかかってきた。また、街宣車も来ているのも事実である。
・警察は12日の試写の前にも積極的に動き、上映の際の警備体制を検討していた。

これらの事から、この言論・表現の自由について考察すべき事は、単に稲田朋美氏側を批判するだけでは本当の意味での問題へのアプローチとはならず、日本人全体が共有して考察すべきことであるように思えます。

東大の長谷部恭男教授は、自由な表現の空間は、豊かな情報が行き渡り、それにもとづく討論や批判の応酬が自由に行われることで、民主主義的な政治過程が良好に機能するための土台をかたちづくり、立憲主義的な公正な社会の枠組みを支えるための公共財であると指摘しています。

そして「公共財という認識」を、少なくとも日本の警察が持っていたからこそ、すばやく映画館の警護体制を検討したのでしょう。真のアナーキストを除いて、このような国家権力の運用は、右派も左派も異論を挟む余地は無いと思います。
明らかなのは、脅迫を含む暴力を用いて行われる「萎縮効果」というものは厳然と存在しており、それによって言論・表現の自由という公共財は容易く破壊されてしまうことです。それを防ぐ為には「公共的な抑止力」によって守るが必要があるのです。
因みに「公共的な抑止力」をコントロールするものが、文民統制などをはじめとする、憲法や法律によってもたらされる国家権力の拘束であることは、これ以上深く言及するまでもないでしょう。

しかし国民のほうは、右派や左派も国会議員も関係なく日本人全体として、「表現の自由は公共財である」という認識を本当にもっているのでしょうか。
例えば、私は伊藤真塾長の主張される非暴力不服従運動の論理に対し、疑問を抱いていることのひとつとして、萎縮効果の問題に関しての言及が全く成されていないことを指摘します。

「最終的に、日本の市民の生命、財産、そして自由で民主的な生活を守るためには、暴力に対して暴力で抵抗するのではなく、いったんは侵略を受け入れて、その後に非暴力抵抗運動を実践していくことが、もっとも勇気ある人間的な行動であるのみならず、もっとも目的適合的な行動であることを認識するべきだと思うのです。」

伊藤塾長はこのようにおっしゃいますが、侵略され国家が滅び、憲法や法律が白紙にされたあげく書き換えられ、国家権力が侵略軍に置き換えられたとき、猛烈な萎縮効果が発生するでしょう。いわば「脅迫政治」ならず「恐怖政治」です。上記にあります報道の自由ランキングは、世界37位から一気に169位(もしくはランク外)になるのは間違いないでしょう。

そのような折、表現の自由が全く保障されていない個人が、一体どうやって市民的非暴力抵抗運動を実践できるのでしょうか。今の日本で警察が目を光らせているのにも拘らず、実際に上映中止問題が出てしまったのですから、侵略されれば特にこの日本においては絶望的であると考えるのが自然であると思います。伊藤塾長のご発言は、かなり無責任なものではないでしょうか。

勿論、言論・表現の自由という公共財に対して無責任な姿勢をとる保守強硬側の責任も免れられるわけは無く、今回の事件に関して岡田裕氏の発言が全て真実であるとするならば、稲田朋美氏が道義上の責任を取って辞職する事になったとしても、弁護の余地がないと私は考えます。

以上にあげられたことを鑑みた上で、我々国民はこの問題をどう考えるべきか、「自由な表現の空間」を保障する社会システムをどう維持すべきかと考察するとき、やはり私は「国家」という前提を抜きには語れないと思います。そして国民の一人一人が今ある日本という国家はどうあるべきか、どのようにすれば暴走も崩壊もさせず、より高いレベルでの生命、財産、そして自由で民主的な生活を確立させる事ができるかを考察する事がもっとも目的適合的であり、そういう考え方の延長線上で今回の「自由な表現の空間」を考察するほうが、より矛盾が少ないのではないでしょうか。

簡潔にまとめると、以下のようになると思われます。
1.自由な表現の空間は、非常に脆い。
2.自由な表現の空間は、為政者であれ、市民であれ、立憲民主主義体制を望むのであるのならば、それを維持するように努めなければならない。
3.自由な表現の空間は、あくまで立憲民主主義体制に裏打ちされた、今の国家システムを維持する為に必要な公共財である。

最後に、以上のような考え方に抵抗を感じる方もいらっしゃると思われますので、参考として長谷部恭男教授と対談した杉田敦教授の発言をご紹介致します。

以下は『これが憲法だ!』のP53からの引用文です。※()は私の加筆です。
「われわれ自身が自分のことを、”一方的に(国家に)要求する主体“ととらえていて、いいのかどうか。われわれは国家があろうとなかろうと、前国家的な権利(註:自然権)をもともと持っている。そういう主体としてまず存在しているという認識から出発して、主権者であるわれわれ一人一人が、自分たちが必要とする秩序を実現するための一つの手段として、例えば国家なんてものをつくってみましたという、そのくらい、国家と距離を置く視点を持つべきではないでしょうか。これまでのように、国家権力に要求するだけの存在、という形で問題をとらえていると、逆に国家を過剰に絶対化してしまうことになりかねないのでは。」

以上の私の一考察をご参考に、皆様が更なるご考察をお深め頂ければ、ありがたいと存じます。
十文字(衆愚代表) 2008/04/06(Sun)20:17:24 編集
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